STはるの研鑽記

老健STが孤独にめげず自己研鑽に励むブログです。

嚥下と姿勢

 高齢者施設でお仕事されている方の中には、利用者さんの車椅子が変わった、離床が困難になったなど、姿勢を巡る環境が変わると食事でむせることが増えたという体験をされた方がいらっしゃるのではと思います。はるも何度も経験し、その度に嚥下と姿勢の重要性を考えさせられました。

出典 姿勢から介入する嚥下障害

 

 いわゆる嚥下筋群は、良肢位のときにその機能を果たします。しかし、首や体幹が安定しないとき、その役割は頸部を支えることに変わり、本来の機能、つまりスムーズな飲み込みが起きなくなります。また、坐位の崩れから骨盤が後傾すると、脊椎から連続性があるため頸部が後屈し、首がつきだした姿勢になります。

出典 姿勢から介入する嚥下障害

 

頸部の伸展は2つの点で誤嚥のリスクが上がります。1つは口腔内から気道まで直角となるため、そのまま食べ物が気道に入り込みやすいことです。

出典 姿勢から介入する嚥下障害

 

もう1つは、嚥下筋群の筋収縮が起きにくくなることです。飲み込みのときに、喉頭挙上に働く、いわゆる舌骨上筋群は、舌骨より上にあり、飲み込みに合わせて喉頭を引き上げます。頸部が伸展していると、上部に引き伸ばされ収縮が起きにくくなります。また、嚥下後に喉頭をもとの位置に戻す舌骨下筋群があり、胸骨や肩甲骨から舌骨に伸びています。これらも引き伸ばされるため、互いに引っ張りあっています。そのため、喉頭が十分挙上せず、誤嚥の原因となるのです。

 

出典 姿勢から介入する嚥下障害

 

しかし、私達はいつもよい姿勢で食事をしている訳ではありません。背中を丸め、よそ見をし、寝そべった姿勢でお菓子を摘むこともあるでしょう。しかし、むせることは限られています。なぜ高齢者はむせるのでしょう。それは、予備の低さにあります。人間は年齢を重ねるなかで、若年期より2頚椎ほど喉頭が下垂すると言われます。また、加齢に伴う筋力低下から、飲み込みの力も弱くなっていきます。だからこそ、高齢の方には安定していて、なおかつニュートラルな頸部の状態で食事を取ってもらうことが必要なのだと考えています。

 

長くなりましたがお付き合い頂きありがとうございました。姿勢と嚥下の話は奥深いので、いずれ続きを書きたいです。

 

参考文献

監修 森若文雄:姿勢から介入する摂食嚥下 脳卒中リハビリテーション.メディカルビュー社